突然ですが、みなさんは小学校の「道徳」の授業を覚えていますか?
さまざまな物事について皆で真剣に語り合う時間。
しかし、そこに国語や算数のような正解はありませんでした。
普通の授業とはなにか違う、子供ながらに不思議な時間だと感じていました。
それは人として生きるための、大事なことを教わっているような感覚。
あのページ数の少ない教科書から、いじめや命の尊さなど、色々学んだことを覚えています。
道徳の授業、懐かしいなぁ…
時は経ち、大人になって日々生活していると、倫理や道徳のことを意識することは滅多になくなりました。
それは、倫理が当たり前に生活に馴染んでいることも一理あります。
今回取り上げる「ふだんづかいの倫理学」は、そんな私たちが無意識に使っている倫理の「基準」を大別して紹介しています。
それは「正義」「自由」「愛」の3つ。
一見、有触れたような言葉のように思えますね。
それでも、私たちが日ごろ無意識に行っている道徳的な判断は、この3つの言葉で説明できると著者の平尾さんは言います。
・人間関係に悩みをもっている人
・倫理学をイチから勉強したい人
・倫理学の基本の考え方とはなにか
・何故、人によって意見が食い違うのか
・人や社会と上手く付き合っていくにはどうすればいいか
人間関係の違いで倫理観を使いわける
例えば、「正義」。
とても堅いイメージがある言葉です。
正義と聞いて連想するのは、裁判や政治等の社会的なもの。
そう、正義は社会的な人間のつながりで使われる倫理観ということになります。
同じように「自由」は「個人」、そして「愛」は「身近な関係」といった人間関係とそれぞれ紐づいているとのことです。
繰り返しますが、「正義」「自由」「愛」、基本的な倫理観はこの3つです。
(著者はさらに、そこからそれぞれ4つに細かく分け、3×4=12個のバリエーションに分けています)
要するに相手との人間関係の距離次第で、私たちは3つの倫理観を使い分けているということが本書のポイントです。
僕たちは、知らない間に3つの倫理観を使い分けているんだね
結局は自分で考える
このように、本書は私たちが無意識に使っている倫理的な判断を具体的に説明してくれます。
しかし、それでも倫理における決定的な”正解”は存在しません。
私たちは、たまに人間関係で衝突します。
どちらも譲らない言い争い。
そしてどちらの言い分もわかることが多々あります。
その原因のほとんどは、3つの倫理観のうち、お互いにどれを優先しているかが違うところにあります。
また、人間の感性なんて人それぞれだし、3つの倫理観が重なる”あわい”の関係もあるでしょう。
ただ間違いなく言えるのは、人生のある問題や選択に迫られたときに、選択肢としてこの3つを把握していることは大きな武器になるということです。
仮に職場や家族、友人等の人間関係で悩んていたとしても、そもそも当てはめている倫理観が誤っているかもしれなません。
たとえば職場に家族のような「愛」を求めていたりしていないでしょうか。
自分と相手の倫理観のズレが、人間関係を複雑にさせるのかも…
また、3つのうちの1つに執着してもいけません。
ある時は併用もするでしょうし、要はバランスが大事になってきます。
あくまで最終的なジャッジを行うのは自分自身です。
しっかり問題に悩むために「3つのものさし」を常に意識して生きていきたいですね。
「平等」は倫理の倫理?
著者の平尾さんは、あらゆる倫理に共通するエッセンスとして「相互性」「平等」を挙げています。
人間は社会的な生き物です。
一人一人がより善く生きるためには平等なルールが必要です。
だからこそ法律があり、司法があり、政治があります。
でもその相互性自体、もっと語られるべきじゃないかとも思いました。
「倫理の倫理」とも言いましょうか。
「メタ倫理」という学問もあるほどです。
倫理の基本的なルールをもっと深く解体していくことによって、人間の根源的な問いに近づけるような気がします。
本書は、分厚い本なので構えてしまいますが、内容はとことん易しく、マンガやドラマなど身近な題材を例にするなど、倫理学初心者にとても配慮されていました。
なによりも筆者のユーモア溢れる(いい意味で)軽いノリの文体が、読んでいてとても面白かったです。
まさに「ふだんづかい」と言えるでしょう。
人間関係に迷わないために、そして人生の指針を考え直すために、おすすめの一冊です。
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