いきなりの暗い話ですが、年をとると病院に行く機会が多くなってきますね。
私、コモも年をとるにつれて、近頃は体のいたる箇所で不調が目立つようになりました。
去年は人生で久しぶりの手術を行い、胆のうを摘出したりもしました。
手術のような、体の不調や病気を「敵」と見なして取り除く、
いわゆる”西洋医学”的な考え方は、とても理にかなったものに思えます。
今回取り上げる「いのちを呼びさますもの」の著者、稲葉俊郎さんは循環器系の医師でもあります。
著者は、病気を治すことだけでは再発に至りやすく、根本的な解決にはならないことが多いと言います。
「病気は身体だけではなく、心を巻き込んだ”不調”のシグナルだ」
病気との向き合い方、そして人生を心身共に健康で豊かに生きるための心構えを、本書は教えてくれます。
・日々の体や心の不調に気が滅入っている人
・人間の体のしくみに興味がある人
・心身ともに健康になるにはどうすればいいか
・芸術は健康にどのように影響するか
ないがしろにされる身体
私たちの体はなんと60兆個の細胞で出来ています。
もちろんその全ての細胞に意識を配ることはできません。
いちいち気を配らなくとも、体は無意識に呼吸をし、心臓は人生の終わりまで鼓動を止めません。
対して、普段意識する体の部位といえば、脳や筋肉、手足等の、生活で実践的に使うものがほとんどです。
特に脳は、人間的な生活において思考ををするのに必要不可欠であり、あらゆる体の部位の中でも重要視しがち。
しかし、実は脳の細胞は全体の体ではたった0.03%なのをご存じですか?
どうしても私たちは無意識に動いている臓器に心を向けず、おろそかにしてしまいます。
そして知らない間に不調をきたし、病気というカタチでシグナルを発するのです。
私たちの身体について、取扱説明書というものは存在しません。
だからこそ、改めて自分の身体について知ることが大切だと本書は教えてくれています。
自分の身体は一番身近なもの。でも身近すぎて知らないこと多いかも…
夢を見るワケ
本書で特に印象に残った箇所は「睡眠」について書かれていた部分です。
人は、レム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)を交互に繰り返しながら眠ります。
でも何故こんな複雑な形態をとったのでしょうか。
かつて人類が進化する前は、不慮の事故に備えてレム睡眠だけで眠っていたと言われています。
しかし、進化するにつれて脳が大きくなり、より思考するために脳を酷使しなければならなくなったため、ノンレム睡眠でしっかり体をオフにして休まなければならなくなりました。
しかし、体をオフにしたままでは、いつ外敵等に狙われるかわからないため、ノンレム睡眠とレム睡眠を交互に繰り返す”妥協案”をとったらしいのです。
な、なんという苦肉の策…
そして、人間関係や社会生活の複雑化によって脳は疲れ、より休みが必要になり、徐々にレム睡眠の割合が増えてきます。
大人が子どもの頃と比べて夢を見なくなるのは、そのためです。
逆に考えると、夢を見なくなったのは心身が疲れているシグナルかもしれません。
そして、夢自体の効果についても興味深いことが書かれています。
夢は、実生活で傷ついた心を修復するための”イメージ言語”だと言われています。
それは意識と無意識を繋ぐ架け橋でありメッセージ。
どんな夢だって、自身を本来の姿に戻すための意味を持っているのです。
一見よくわからない夢でも、なにか隠されたメッセージもしれない…!
芸術は心身を豊かにする
私たちは芸術を見る時、まさに「言葉にできない」ほど感動します。
逆に言えば、その感動は「美しい」「きれい」など、意図的に作られた”言葉”なんかじゃ表現できないということです。
その感動は、自身の無意識へとつながり、心を豊かにしてくれます。
能楽の大成者、世阿弥の「風姿花伝」には「芸能とは、寿や福を増やしていくもの」と書かれています。
現代は健康について、「健康になりたい→病気を治したい→病院に行く」と一連の流れで考えることが普通です。
しかし、古代ギリシャは人は健康を求めて、神殿に寝そべって夢を見たり、温泉に行ったりしていました。
日本でも明治期では、療養地として温泉に行く人が多かったそうです。
(明治の文豪、夏目漱石の「明暗」にもその描写が出てきます)
自分の好きな場所で過ごすことは、病院以上に効果的なこともあるかもね
心身を回復させる場所は、病院だけじゃないことを忘れないでいたいですね。
「治す」のではなく「治る」
世界保健機関(WHO)は健康の定義を
「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」としています。
肉体と精神は繋がっていて、片方が疲れてしまうと、もう片方にも影響が生じます。
同様に片方が満たされていると、片方もおのずと回復することがあります。
そして精神を豊かにするため、人間には”創造すること”が必要不可欠だと筆者は言います。
全ての人は、創造を楽しむことができます。
しかし、ここでいう”創造”は芸術作品を作ることだけではありません。
仕事、家事、趣味など、身の回りの生活は考え方次第で創造に満ちているのです。
どんな些細なことでもそこに喜びを見出し、素敵で充実した暮らしを目指していく。
そして心が満たされれば、自然と身体の調子も良くなっていく。
「病気が治ったから健康になるか 健康になったから病気が治るか」
本書で印象に残った言葉でした。
まずは心から
突然ですが私、コモはここ数年、蕁麻疹に悩まされています。
アレルギー検査を行っても原因の特定には至らず「一生このかゆみと付き合っていかなければならないのか」と一人で悩んでいました。
しかしある日、人間ドックの問診で、先生にこのことをたまたまダメ元で聞いた時、先生の一言にとても勇気づけられたのです。
「大丈夫、日頃から元気な生活を心がければ治りますよ」
薬や治療法などの具体的なアドバイスではありませんでした。
はたまた、何の根拠もない言葉かもしれない。
しかし、なんだかこの言葉に救われた気がしました。
たとえ、持病があっても楽しく、充実した生活を過ごすことは可能です。
治らない病気であっても、それを肯定し、新しい調和を目指すきっかけにしよう。
そして心が健康になれば、おのずと体の不調も回復するのではないでしょうか。
私たちの心身は日々の生活の波に揉まれ、知らないうちに無理をしています。
時間どおりに管理されたスケジュール、煩わしい人間関係、怒号や愚痴が飛び交うSNS…。
それでも自分と冷静に向き合い、夢を見ることや芸術を楽しみ、言葉にできない喜びを見出すことは、日々の暮らしのなかで出来るはずです。
そして、生きている実感を噛みしめて、心身共に豊かな生活を過ごしていきたいものですね。
コメント