突然ですが、みなさんは「四角形」の成り立ちについて考えたことはありますか?
唐突すぎて「?」と思われた方も多いかもしれません。
私たちの身の回りには、四角形のものが溢れています。
たとえば今、あなたがこのブログを見ているスマホやPCの画面も四角形ですね。
でもこの四角形、そもそもどうやって生まれたのでしょうか。
今回取り上げる、赤瀬川源平さんの「四角形の歴史」。
見た目は文庫本ですが、中身はなんと、可愛らしいイラストに彩られた絵本なんです。
本書は「こどもの哲学 大人の絵本」シリーズのなかの1冊です。
文字数も少なく、日頃読書をしている人なら、ほんの15分ほどで読み終わることができると思います。
むしろ私にとっては、読書後の色々と物思いに耽る時間のほうが長かったです。
お子さまはもちろん、大人の人にこそ読んでほしい!
読んだあとには、いつもの景色がちょっぴり違って見えます。
漫画家であり芥川賞作家での著者による、想像力が豊かになる絵本だよ。
・身近な物事について、じっくりと考えたい!
・内容が深い絵本を読みたい!
風景画の起源
本の序盤、まず著者は風景画の成り立ちについて思いを巡らせます。
風景画と聞いて多くの人が連想するのは、モネやミレーなどの印象派の作品でしょうか。
かつて印象派以前の西洋絵画は、貴族や権力者を描いた人物画が大半を占めていました。
しかし産業革命以後、一般市民の地位が向上するにつれ、何気ない暮らしの情景が多く描かれるようになります。
それに伴い、身の回りのものや自然などがクローズアップされ、徐々に風景画が描かれるようになりました。
では、時をもっと遡ってみましょう。
みなさんは、人間の芸術の起源とされる「ラスコー洞窟の壁画」をご存じですか?
2万年前にクロマニヨン人によって作られたこの壁画には、馬やヤギなどのさまざまな動物が描かれています。
しかしそこにはもちろん、これといった”風景”は存在していません。
時縄文時代や弥生時代の土器に描かれているものも、抽象的な人物や家畜で、土器の”余白”にはもちろん風景は描かれてません。
昔の人たちは、風景を見ているようで見ていなかったのかな…?
次に著者は風景画の手がかりとして、「余白の認識」をキーワードに挙げます。
余白を認識するための四角形
著者は、人間が風景を認識した起源をこう考えます。
「雨の日、家の窓から何気なくボーっと外を見たその瞬間、人は風景を感じたのではないか」と。
なんだかとてもロマンチックですね。
では、その窓の形そのものである、いわゆる「四角形」はいつから存在しているのでしょうか。
よくよく考えてみると、自然界には四角形は存在しません。
木の枝や動物の身体のラインを見てみても、曲線だったり、歪な形をしているようにみえます。
しかし、実は直線は存在していることに気づかれましたか?
木から垂れた蜘蛛の糸、遠くに見える水平線…
言われてみれば、たしかに直線ですね。
そしてここから本題です。四角形はどこからきたのでしょうか。
著者は、人間の整理整頓の習性が、四角形を生んだと考えます。
ここで想像してみてください。
たとえば部屋の端から道具やモノを順番に並べ、それを2列目3列目と繰り返していくと、徐々に四角形が出来上ががるのです。
一見、突っ込みどころ満載な理論な気もします。
しかし、案外そういう偶然の秩序が、自然界にない四角形を生んだのかもしれないと著者は言います。
私たちの暮らしは、人工的な四角形で溢れています。
家やビル、机、ノート…。
機能的なものはほとんど四角形です。
「整理整頓のメンタルが、合理性の象徴である四角形を生み出した」とは、なるほどなと思いました。
犬は何を見ているか
本書には物語のカギとして、ある1匹の犬が随所に登場します。
身の回りにいるワンちゃんを想像すると、犬は自分が興味のあるモノしか見ていないようにみえます。
ご主人さま、エサ、おしっこのための電柱…。
はたして犬は、本当に「モノ」しか見ていないのでしょうか。
そんなことはないと筆者は語ります。
たとえば昼下がり、小屋に繋がれた犬が、寝そべりながら退屈そうに遠くを見つめているシーンを思い浮かべてください。
想像すると、犬の目線の先には「モノの対象」はきっと存在していないようにも思えます。
犬は間違いなく風景、いわゆる物事の余白をボーッと見ているのではないでしょうか。
どうやら人間は、年を取るごとに、風景自体の中に溶け込んでいくようです。
モノを対象として見なくなり、全てが混ざり合って溶けていく風景に変わっていきます。
いわゆる、余白自体が無くなっていくのです。
そんな本書のラストに描かれるイラストは、浮遊感に溢れていて、どことなくせつないです。
まさに大人の絵本。
哲学的で現実逃避ができ、読み終わったあとにはほんの少し世界が違って見えます。
ある雨の日、あなたの家の四角形の窓からは、どんな風景が見えていますか?
コメント