「キリンの首が長いのは、高い所の葉を食べるため」
子どもの頃、先生や親から一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。
当時小学生だった私は、キリンが背の高い木の葉っぱを食べようと、必死に首を伸ばしている光景をよく想像しました。
しかし、ご存知の方も多いと思いますが、これは全くのデタラメです。
そう、首が長くなったのはあくまで偶然。
たまたま首が長くなったキリンが、餌にありつけて生き残った結果なのです。
生物の進化にはあらゆる要素が伴います。
突然変異、自然選択…。
そんな動物の進化のメカニズムを、マダガスカルで解明したのが、あの有名なチャールズ・ダーウィン。
彼の著作、「進化論」が当時物議を醸しだしたことは、文系の私でも知っているほど有名な話です。
そして現代の進化学者は、そんなダーウィンを夢見て、研究に勤しんでいるのです。
今回ご紹介する本、「進化のからくり」の著者、千葉聡さんも進化学を専門とする教授です。
文系の私はこの手のジャンルの本を、どうも苦手意識があり、敬遠してきました。
もちろん本書も、DNAやRNAなど、その道の専門用語がたくさん登場します。
しかし本書は、著者が経験してきた学者仲間との研究の軌跡が、とてもわかりやすく書かれており、比較的スラスラと読むことができました。
・文系だけど、生き物の進化の秘密について興味がある!
・生物学者が、普段どんな研究をしているのか知りたい!
・進化学の本を読みたいけど、難しすぎないのが良い!
専門的な内容なのに、まるで、さわやかなエッセイを読んでいるようだったよ。
右巻き?左巻き?
著者が専門として研究しているのは「陸貝(りくがい)」。
陸貝と聞いて、ピンと来ない人も多いかもしれません。
私たちがよく知っている陸貝といえば、カタツムリです。
そしてなんと日本は「カタツムリ大国」であり、世界的に見ても珍しい固有種の宝庫なのです。
さらに不思議なことに、カタツムリは、殻が右巻きと左巻きのものがいます。
果たして、この右巻きと左巻きの違いが種の違いなのかが、学者たちの間の長年の謎でした。
一般的な「種」の区分方法は、「各々が生殖行為を行うことができるかどうか」が基準になっているようです。
著者は、右巻きと左巻きのカタツムリが交尾する事例を探し求めます。
そして、そもそも何が右巻きと左巻きを決めているのか。
紆余曲折の研究の軌跡が、本書では謎が謎意を呼ぶ小説仕立てで書かれています。
カワニナが握る進化のカギ
みなさんは、カワニナという生き物をご存じですか?
田んぼや川に生息する、タニシのような小さな巻貝です。
ホタルのエサとして知っている方も多いでしょう。
この小指サイズほどのカワニナが、壮絶な進化のヒミツを隠し持っていると著者は言います。
現在、日本には18種のカワニナが生息しています。
そのうちの15種が、なんと琵琶湖とその周辺の水系にしか生息していないのです。
一体何故?
カワニナの遺伝子を巡る謎。
そして太古の琵琶湖に隠された真実。
研究者同士のバトルもありつつ、物語は生命の進化にまつわる深淵へと向かいます。
ま、まさに進化のヒミツ…!
もう一つ、本書で印象的だったのは、生態系の問題。
テレビを見ていると、ホタルを増やすために、小川にカワニナを放流するニュースをよく目にします。
しかし、そのカワニナは紛れもなく他の場所から持ってきたカワニナです。
そのカワニナが繁殖してしまうと、もともとの土地固有の生態系が崩れてしまいかねません。
飼えなくなった魚などのペットを野生に返すのは大問題ですが、カワニナのような小さな生き物でも生態系に多大な影響を与えることをもっと危険視せねばなりません。
進化学者が目指す場所
本書ではその他、鳥やクモ、そしてグッピー等、さまざまな生き物の進化にまつわる秘話が書かれていて、ほんの少しですが進化学の魅力を垣間見ることができました。
先述したように、コテコテの文系の私には専門的なことはわからなく、本の内容の全てを理解できたかは怪しいです。
しかし、進化学者の仕事や、普段考えていることを知ることは刺激的だったし、好奇心や謎が人を育てていくことは、どの職種でも変わらないことなんだと、しみじみ感じました。
身の回りのほんの小さな生き物でも、祖先から引き継がれてきた進化のヒミツを隠し持っています。
進化学者の研究の果てには、生命の謎、そしてこの世にある生命の意味について、何らかの真実が待っているのかもしれません。
進化学を学ぶことは、「自分が何者なのか」を知る手掛かりになるかも…
専門家じゃない私たちも、「一介の進化学ファン」として好奇心を持ち続けていたいですね。
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